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「山ちゃん」
(生きるのは)簡単ですよ死ぬまで生きてりゃ
いいんだから と山ちゃんは言う
何にもしないでいるのが一番しんどい
と山ちゃんは言う
山ちゃんは手掴みでヤマメを獲ってくる
剥き出しの火を囲む炉を作る石の
選び方を知っている
まるで人生にキャンプしてるみたいな
この人はできるだけ人を殺さずに
生きようとしているのだと
思えてくる時がある
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「稲刈りに行って来ました」
これが日本海 あれが佐渡島 ―
日本海はねじれながら近づいて来る
呑まれるまでの束の間の宴だ
じさくさんが釣ってきてくれた魚の
潤んだままの眼に
宴はにぎやかに濡れている
俺達は互いにあだ名しか知らないけれど
海も山もやっぱりそのあだ名しか
知らないし
この世のものでないものが釣れて
黙って海に返す事もしばしばだ
(カミサマなんてあだ名をつけて)
そうして砂浜に散らばった俺達は
高みから何かの文字に見えるけど
生でも死でも愛でもなくて
そもそも俺達が何かの
あだ名みたいなものかもしれず
それなのに人生は観光バスに乗って
砂の輪の上を走り回るのだ
おみやげが重すぎていつまでも
同じ砂の輪の上をぐるぐると
これが日本海 あれが佐渡島
じゃあ あれは?ー
日本海は砂の輪に
ねじれながら近づいて来る
俺達の十次元のカーナビは
あれも俺達だと言っている、なんて
遠くばっかり見ていたら
靴がびしょびしょに濡れていた
でもそんな連中とは
昨日別れたように会えるものだから
また明日 一本の樹よ
いつかの 明日
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「岩室」
稲を刈る吾を刈る鎌 空にあり
空の頭を垂れ実り無く
身の固き娘の鎌に映ゆる空
その曇天の肉の羽衣
木の間より死児の覗ける心地して
庭先の雨 胸に走れる
崩れたいか飛びたいかまた堕ちたいか
それ故に立つ岩礁の木よ
海のものとも山のものともつかぬのが
ただ俺達のものと知りぬる
ロープウェイで神の御許へ行けるなら
そこから先の行くあても無し
風穴は総身にあり音をたて
面映ゆきかな海の廃兵
神も死者も妬み深きこの岩室に
水を覗けど明日は映らず
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