発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌「あたふた」 Vol.101 2005.8月号

Brogressive note vol.3

人間が戦争を終わらせなければ、戦争が人間を終わらせるだろう・・・夏









アピア・マスター 伊東哲男

 夏だ。見事な夏だ。台風一過、抜けるような青空と眩しい白い雲、輝く緑、梅雨明けを知らせる祝砲のような夏だ。クーラーを止めて、窓をいっぱい開け放ち、部屋の中に溜まったかび臭さを吹き飛ばす。旬の夏だ、カツオでもアジでもナスでも旬はイイ。来たな!! っていう感じが好きだ。輝いて見えるじゃないか。毎年この季節はエレキギターのギンギンのロックがよく似合う。ツェペリンとかジミヘンとかが今でも好きだ。 ちょっとボリュームを上げて部屋の中でひとり富士ROCK!! 青空に浸みるぜロックギターが、テレビからは甲子園の予選、球児たちの夏が弾けてる。ところで、今年はひと味違う旬だ。富士ROCKから沖縄に飛んで「AMAMI」だ。「我自由丸」だ「バナナ」だ。旬はイイ、CDもね。ミチロウはスゴイ、いつも旬の味を出せるのが!! テレビからは甲子園、あれっ俺の母校が、決勝進出をかけて準決勝を戦っている。激戦の神奈川大会でスゴ〜イ。ワッ応援席に女子高生が・・・、知らなかった男子校だったのにいつの間にか共学に。あの頃俺は応援部で高校野球の応援でスタンドに、詰め襟着て暑かったなぁ〜、あの時だ声を張りすぎてツブしちまったのは、ボーイソプラノだったのに・・・夢を掴むための熱い夏。40年も前の夏。


 今のアピアのステージも熱いぜ、イヤ暑いぜ!! 夏は、高校野球のスタンドに負けないくらいだ。客席はクーラーが効きすぎる位なのに、ステージは目眩がするほどの夏だ。それもその筈照明一個が500Wだからコタツ一台と同じ。10台つけたら真夏にコタツ10台に囲まれてルンルン、歌い終わってドリンクガブガブ、BUT!! 待て待て!! そんな、いくら暑くて喉が渇いたからといってすっかり素になっちゃて、客の見守る中マジに飲んじゃてる。せっかくイイ唄を聞いて気持ちがノッテたのに、興ざめである。見苦しいというか美しくナ〜イのである。「飲む」というのは「食欲」や「性欲」と同じ欲求である。ステージで生な、素の「欲求」を見せるのは実に難しい事だ。中には歌い終わって客が拍手をしているのにそれを受け止めもせず、さっさとドリンクに飛びついてガブガブ、失礼ったらありゃしない。以前は30分ぐらいのステージでドリンクを持ち込むなと言っていた。照明浴びて暑いから喉が渇いて声が出ない、なんてのはプロではない。練習の時にもスタジオでドリンク持ち込んでガブガブやってるに決まってる。演劇の舞台で、仮に時代劇だとしたら相手役が台詞を言っている間に懐からポカリスェットかなんか出して飲んでたら笑うぜチョンマゲして、演出ならともかく。ミュージカルで全員がそれぞれお気に入りのステージドリンクを持って出てたらおかしいだろうなァ。何十年も続いているテレビ番組の司会者が本番の前夜から水分を控えるようにしていると言っていたのを思い出す。スタジオの照明を浴びて汗をかくと見苦しいからという理由で、涼しい顔してやってるようでプロは様々な楽屋裏を持っているものだ。アピアでリハ前から、リハの最中に、そしてリハが終わってからガブガブ飲んでいる人がいる。近くのコンビニでペットボトル何本も買い込んで、中には2リットルボトルをドント抱え込んで!!オ〜ぃソレ全部汗になっちゃうよ、ステージ前は喉を潤す程度でまともに飲んじゃ駄目だよ、なんて言っても「暑いッスから」なんて言って聞く耳を持たない。

 カッコイイステージドリンクの使い方をする人もたくさんいる。Yクンはトムウエィツばりの酒やけした声でブルージイな曲を唄う人気者。ある時ステージが後半にさしかかった時、ジーンズのお尻のポケットから携帯用のアルミボトルを取り出し(よくカーボーイが使っているヤツ)大胆にウイスキーをラッパ飲みするとラスト3曲を一気に歌い飛ばしボトルをステージにポイと投げ捨てフィニッシュ。客席からは大歓声!!ワイルドさを持ち味とする唄に堂々としたウイスキーのラッパ飲みはピッタリ、タイミングも良かった、さぁこれから後半飛ばすぞというお客にも合図となった。実は彼酒が弱いのを僕は知っていた、中身が健康茶か何かって事も。つまり演出、別に飲みたくもないのに飲んで見せた、素じゃないから格好良く見えたんだ。

 ステージドリンクって何を飲むかだって充分頭を悩ませる事だ。唄の持つイメージと歌う人のキャラとマッチングしてなければおかしい。ポップでアメリカ的なコーラがイイという人もいれば、ちょっとアダルトな夜のムードで水割りでしょという人、日常的なイメージの強いウーロン茶とかビールはイヤだとか、チバ大三がリボンのストローでジュース飲んでたら可笑しいだろうなとか・・・プロになるとステージで飲む事はほとんどないので楽屋に自家製の喉によい特製ドリンクをポットに入れて持参してたりする。喉のためにはウーロン茶とか、氷の入った冷たいのは良くないしとか、炭酸の入ったのは歌ってる途中でゲップがでる可能性が高いとか・・・蜂蜜入りがいいとかマラソンの給水ドリンク並の気の使いようだ。
 飲む容器だって重要だ。ペットボトルのままとグラスで飲むのでは、同じ物でもイメージは変わってくる。缶やペットボトルはチープすぎてイヤだ、ビンがイイという人や、自宅から綺麗な紅茶のカップとティーボトルを持参してステージに並べて、お茶しながらのステージなんて人もいた、決まればいいが、一つ間違えると懲りすぎはイヤ味になって反感を買う。

 ドリンクを飲むタイミングも重要だ。ライブが始まる前に一口つけて、その後は最後まで飲まずにやるとか、1曲歌い終わったところでまだ少し固い雰囲気をほぐす意味で一口、あるいはライブの中盤に小休止の意味で一口とか。どちらにしろ自分がではなくお客さんがリラックスして一息つけるようなポイントで飲むのが美しい。盛り上がる後半は飲まない方がライブのテンポと間がいいだろう。水が入るとか、水を差すと言ってエンディングへの流れが悪くなるから。絶対いけないのは毎曲後ドリンクに飛びつく事だステージで目に付きすぎる、歌いにきたのか飲みに来たのか分からなくなる。一番目立たない飲むタイミングはMCの途中とか、MC後の次の曲の始まる前だろう。少なくとも曲が終わったすぐ後はまだ虚構が残っているのでやめたほうがいい。

 だめ押しで言うならば飲み方だって問題だ。正面切って飲むのか、横向いて飲むのか、後ろ向いて飲むのか、立ったまま飲むのか、座って飲むのか、君ならどうする、飲んでる顔を見られないように後ろを向いて謙虚にいくか、でもプロがいたら怒鳴られるぞステージで客にケツ向けたら。昔、ブリジットフォンティーヌの公演を観に行ったとき、ワンコーラス歌ったあとの間奏で突然、うさぎっ飛びのようにピョンピョンステージを飛び跳ね気が付くとドリンクボトルのとこにいき手にして飲んでいた。一度ステージに上がったらドリンク飲むことだって表現の一翼だって事だ。楽器以外で手にするのはドリンクだけだろうから。これだけ問題抱えるステージドリンク、どうすりゃいいかというと、結論は最初に言ったが"飲まないのが一番"ということだ。
 さあ、これだけ「あたふた」でブログっちゃたから、お客さんもこれ読むし、出演者のみなさ〜ん大変ですよ、もしかすると、唄よりもドリンク飲むとこ注目して見てるかもよ!! この夏、アピアのステージドリンクがどう変わるのか?ボクも楽しみである。


 今年の夏は一段と暑い夏になりそうな予感がする。実は今回の夏休みにベトナムへ小旅行をしようと予定していたのだが、諸都合で延期になった。ベトナム=ベトナム戦争がボクの中では圧倒的だ。何しろボクが12才の時に開戦し、アピアを始めた1970年頃に戦闘も一段と激化、さらに終結まで5年を要したこの戦いは、あまりに凄まじすぎてボクの青春のブラックホールとなった。終戦から30年たった今、やっとボクの内部に幽閉されてきたベトナムを21世紀の白日夢に照らし出してみようと思ったのだ。
 1965年頃からベトナム戦争が激化すると、若者を中心に反戦と平和を訴える渦が世界を駆けめぐった。ボクは美大を受験するために浪人をしてデッサンにしがみついていたが、それどころではなくなった。やがてヒッピーのサブカルチャーが生まれ、1969年あの伝説といまや言われるWOODSTOCK FESTIVALの記念すべき3日間があった。サンタナが、ジャニスが、THE BANDがJEF BECKが、THE WHOが、B.S.Tがノーギャラで世界中から集まってきた多くのミュージシャンと40万人のキャンプイン生活は世界に衝撃を与え反戦・平和活動の火が一気に広がっていった。ジミヘンドリックスが最終日に弾いた「アメリカ国歌」のエキセントリックなギターは、今でも夏が来るたびに思い起こされる。日本でも頭脳警察が、南 正人らが様々なイヴェントで活動、1971年にはジョンレノンが「イマジン」を発表、自由と平和を手にしなければ明日はないと世界中の若者が熱く語った。人間が戦争を終わらせなければ、戦争が人間を終わらせるだろうと。 その意味で20世紀末が九回裏の攻撃だったならば、21世紀の今は延長戦を戦っているにすぎないのか、ベトナムからアフガン、イラン・イラクへ、アウエイからホームに戦場は廻っていく。やがて日本にもWorld Cup Warがやってくるかもね。僕らにロスタイムはどれぐらい残されているの?


 今夏、南 正人の自伝が発売された。1965年からまさに初夏とも言える太陽の目映いオンザロード自叙伝である。これは読破すべき本だ。この夏に!!



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