発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌 Vol.127 2007.10月号
マジック・カーペットに乗って   ネネ@橋の下
空飛ぶ絨毯アピアLIVE11月11日(日)

“空飛ぶ絨毯”に初めて乗ったのは、いつだったろうか。
 中央線沿線の、一風変ったライブハウスで、優しそうなお二人に出会ったのは数年前。よく一緒にいる、体格の良い若者が、まさか実の息子さんだったとは。
 その頃フロントの遊さんは、コントラバスを弾いていた。はくもくれん、つまりはっちゃんは、まだドラムを叩いてはいなかった。そして、TAKAMA君は、若いくせに、えらく成熟したギターを弾いていたっけ。(空絨では、ベース担当。)
 私ネネは所詮ハムスターだが、いずれは、ステージに復帰したかったため、のんびりメンバーを探していた事と、彼らのホームグラウンドである、赤坂の古い喫茶店兼ライブハウスが素敵だったこともあって、彼らのライブによく足を運ぶようになった。その辺がきっかけだろう。
 ある雨の夜、コーヒーの香りのしみついた赤坂、橋の下。
 ぶらりと立ち寄ってみると、今ほどメンバーが固まっておらず、店内には人が少なかった。時間も余っているから君も歌えば、と言われたものだ。当然、本格復帰していなかった私は丁重にご辞退させて頂いたが、いずれはステージに立てるという楽しみもあって、ここから彼らとの旅路が始まったのだった。
 今とは、ちょっとバンド名が違っていたが、一度地上を離れた彼らの飛行は、力強かった・・・・私は、ほとんど結成当時から、その飛行をつぶさに見てきた。だから、知っている、どうして彼らの絆があんなに強いのかという事を。
 初めて遠出したのは、千葉だったかな。E・JAMという千葉発祥の音楽イベントに出演するためだった。(N・Aさんという個性的な歌手の出身イベントでもある)松戸から少し離れた“森のホール”は、とても美しい場所だった。
 その伝手で、同じく松戸の知る人ぞ知る沖縄料理店兼ライブハウス“若夏”でのイベントに参加。いながらにして沖縄、といった熱い空気の中で、のびのびと演奏する彼らの姿は、一生忘れられない。(その様子はしっかりカメラに収めてあるので、ご覧になりたい方は、内緒で私ネネにお申し出下さい。)
 橋の下は、フロントの遊さんの古くからの知人である、松川ブラザースが音響面を仕切っている。実は、空飛ぶ絨毯のメンバーが少し入れ替わって、ダイニング・パイレーツというバンドがあり、ギターとドラムで松川兄弟が参加している。ここで、ドラムのはくもくれんは、コーラスを担当しているのである。(ちなみに、私ネネはハムスターだが、たま?に朗読で空飛ぶ絨毯にお邪魔している。このヴァージョンは、主に高円寺のライブハウスで観られる)
 そして、ついに、昨年の夏、ダイニング・パイレーツが野外ライヴに参加した。私ネネは、ローディー兼コック兼客として盛り上げ役兼ナビゲーターとして、車の隅っこにケージを置いてもらって同行させて頂いた。何しろ夜行性なので、夜中じゅう目がぱっちりだ。
 しかし、私と同じように食べる事が大好きなメンバーは、出番が終わるとすぐに、私の小さな手で作ったお弁当や、ブロックベーコンやチーズを網で焼いて酒宴を始めた。マイナスイオンたっぷりの滑沢キャンプ村は、全く不思議な空間で、普段食の細い私や、脂っこいものが苦手な遊さんや、はっちゃんも、信じられないくらい食が進んだ。人も動物も、大自然の中で過ごすべきなんだろう。その夜は疲れを知らずに皆で騒ぎ続けた。
 次の日、皆で温泉に浸かってから、帰途についた・・・・。夏の日の、眩しい光。緑したたる、山々。夢のような一夜だった・・・。
 最初に、このバンドの結束の固さを話題に出したが、正直なことを言えば、空飛ぶ絨毯のメンバーは、何回かチェンジしている。フロントのヴォーカリストは、少なくとも2回以上替わっている。それが何故なのかは、私ネネにも、何とも言えない。
 ただひとつ言える事は、皆、今の主要メンバーでもある3人のかもし出す暖かい雰囲気に惹かれて集まってきたのだ。それが逆に、血のつながりだけに留まらない、この絆の厳しさに耐えられなかった、それだけの事なんだろう。
 ドラマーのはっちゃんは、実は、このバンドで初めてドラムを叩くようになった。今、空飛ぶ絨毯を観た人には、そんな事想像出来ないだろう。しかしフロントの遊さんは、かなり長いキャリアの持ち主だし、TAKAMA君は寸暇を惜しんでギターを弾いている。彼らについて行くために、相当の努力をしているはずだ。しかも、生活も共にしているのだから、常に、音に対する緊張は解けないだろう。
 血がつながっていても、その絶妙のバランスで、空飛ぶ絨毯は息も切らさずに飛び続けている。言葉にならない信頼関係で、決して地上に墜落する事なんて、無い。むしろ、メンバーが替わったとしても、決して堕ちるものか、と覚悟を決めているに違いない。
 最近、荻窪の縁で知り合った、ダイナマイト・ナオッキーがこの飛行に加わった。しびれるようなテレキャス遣いの彼は、私が見る限り、この魔法の絨毯から零れ落ちないと思う。今まで、通り過ぎて行ったメンバーとは明らかに違って、とても力強いから。
 私ネネは、このおもちゃのビーズの様な眸で、これからもずっと空飛ぶ絨毯の飛行を見守り続けることだろう。たまに、絨毯の端っこについている房に掴まって、足をばたつかせながら。
 地の果てまで辿り着くには、まだまだそれはあまりに遠い。


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