発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌 Vol.115 2006.10月号
「われ生きるゆえにゴミあり」

小池真司・誌上ギャラリー
「われ生きるゆえにゴミあり」

一週間タコツボで息を殺し
通り過ぎた後飛び出して爆薬を投げつける
何故俺は戦場にいるのだろう?

人々が笑いさざめく日曜日に
俺は慰安婦を買いに行く
何故俺は戦場にいるのだろう?

俺の実弾はまだおまえの淋しい
子宮の中に撃ち込まれるだけだが
未来が無いのに今日がある筈がない
そう考える俺達は病んだ帰還兵に限りなく似ている

無数の鳥がふいに死んで公園を埋める
俺達のうちの一人がまた殺人を犯す
俺達の体験で人間の堪え得る一線を越えたものは何か?

死んだ鳥で埋め尽くされた穴であるおまえ
最後の鳥がおまえの穴に落ちたのはいつか?

隣の女は腐りながら自らをすする
男は曲げられたまま立っている針金にすぎぬ
それらが鳥でいっぱいの穴のほとりにあるだけで
他に俺達に何もない時

俺はアーマーライトを抱えタコツボに戻る
全ての聖戦を失った俺は
その致命傷に傷口から精液を零しながら
凄まじいキャタピラの音を
慄えながら聞いている
俺の親父の磨いた戦車

俺のおふくろが買われた部隊
俺の兄貴は轢死体
俺の従弟は脳病院
アーマーライトに接吻し
自分の頭を撃ち抜くために
かまえる余地も此処には無い

俺はまた不様に飛び出していき
ケツを振る若い女に断罪される
若い女は神だ
世界がケツならばそうだ

バーン! 殺せるのが人間だけなら
この方法は間違いだ だが制度は全て人間なのだ バーン! バーン!
ジャングルでは弾は跳ね返り何処から飛んできて誰にあたるか判らない
だが誰にあたってもいいのなら狙いは正確だったに違いない

電話だ苦情だ請求だ相談だ
哀訴だ告発だ濡れ衣だ間違いだ
俺は鳥で埋まった穴だ だから全ての電話は間違いだ 嘘だ人間だ犬だ
寿司だ虐待だSMだ人間魚雷回天だ
教祖だ(奴にはペニスが三本ある!)
ワルプルギスの夜 男は女を丸のまま食うが女は複数で男を引きちぎって食う
それだけだ 電話を置く 電話を置く度に
天使がひとり死ぬ

「ROKUROU」谷内六郎に

しんとした黄色い夕陽の中で
少女が井戸を汲んでいる
水の音がする
ラヂオの音がする
そして
少女は思っている
戦争のことを

黄色が思っている
戦争のことを

生は「永遠」の
一枚の 
表紙絵

いま ROKUROUの
夕陽が 止まる

「BLUE/RED」

誰も俺を人だとは気づかない
誰かの小便が足下まで流れてくる
そこに座っていた人が
誰も帰らない俺は椅子だ

交差点で何人かがふいに倒れ
足首の縄によって曳かれ
黒い馬によって連れ去られる
全ての信号が赤である瞬時に

水に釘は打たれ
風は灰色に塗られる
アスベストの布で目隠しをしていたから
誰かを殺れるはずなどなかったのにな

七三一部隊ごっこが好きだ
マルタの解剖学が好きだ

全身を麻の布で覆い
暗い部屋にペニスだけが立っていた
あの娘はきちんと小便をかけて帰った
全ての信号が赤である瞬時に

誰かが俺の代わりに生えていた
それだけで充分な理由じゃないか?
誰も俺が人だとは気づかない
全ての信号が青である夜に

「ワンダフル・ライフ」

窓口の長い行列で
私達は冬も夏も待つだろう
その窓口を通るための
たったひとつの言葉を口ごもり
うなだれて列の終りを探すだろう
そのためにまた幾つもの季節があり
その度に人生を後ろ向きに辿るだろう

荒れ果てた廃工場の片隅に
そして列の終りは見つかるだろう
戦火に崩れた街を通り
女衒の手招きのままに曲がり
剥き出しの涙の谷を過ぎて
列は少しずつ進むだろう
朽ちかけた貧民街を
大理石の貧民街を
ずぶ濡れの列は進むだろう

「時よ 止まれ
人生よ おまえは美しい」

そう呟いてうなだれる男に
窓口は白く閉じたまま
この薄明の教室を
私もまた後ろへと生きるだろう

この辺に埋めてやろうよ この星の
      いずこ何処でもない六番倉庫


曇天のテレビアンテナ鴉群れ
         午後三時死鳥率高し


影絵なる いのちかと君の手は透けて
      飛行機の灯の病みて行き交ふ


あまりにも吾は多数であるが故
     死児の帽子がまち都市を埋めゆく



P1 P2 P3 P4 P5 P6