発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌 Vol.114 2006.9月号

「黒い宇宙のひかり」

楠木 菊花

 なるべくたくさんの力を使って、ここから逃げ出さなければならない。
右を見て、右を習い、左を見て、左に習う、並び順を間違えない人たちのために、私は列を崩さず、しかし直ちに自分ひとりだけの真っ直ぐに伸びる強かな道を作らねばならない。
食い殺された理性の鉄壁の袋小路に、四方八方、敵味方関係なく私へ投げかけられる言葉。蔑みは受け入れるだけ欲望の果てへと続いていく。
私の言葉なんて、あなたに追いつかなくてもいい。だから濁した心の全てでもって、投げかけることを諦めるから、欲望の猛獣の餌食となって消えてよ。
あなたの痛いところを突いた私の言葉は、あなたに痛いところがあったから突き刺さっただけにすぎなくて、別に私はあなたの神さまじゃないから勘違いするな、誰もあなたのためになんか生きてない。
いやむしろ。では私はあなたのために生きてみせますから、あなた、私の人生の全てを引き受けて生きてくれますか?バッカ。どういうことか分かって言ってんのかよ?愛し合おうって言ってんじゃねーんだよ。介護してくれって言ってんだよ。お前の一生かけて私を介護しろよ、この勘違い野郎。自分ひとりだけでも満足に立てない人間が、どうやって誰かの重みを抱きかかえながら生きていけれるのか、まずそのバカから治してこいよ、薄気味の悪い害虫が。
お前の人生になんて興味がないから私の人生からも姿かたち消えうせていなくなれよ寄生虫。
私の行く道とお前の道とを重ねて同じ道にしなくていいから、まず消えろ。交差して交わろうともするな。
いいか?二度と私と交わるな。そんなに生きるの面倒くさかったら死ねばいいじゃないか。
さあ、早く、逃げなければいけない。どこの誰が私のことを蔑もうとも。私を陥れようとも。だけど私はその誰の向ける悪意にも負けやしない。ハッ?
なぜなら?どこの誰が向ける無責任な悪意よりも、私が私自身に向けている悪意のほうがとてつもなく強くて大きいからだ。あなたたちの悪意は、私が私に向ける悪意よりも小さくて醜くて美しい。
だから私の前から消えろ。手の届かぬ深部に心を馳せて逃げて逃げて逃げて逃げ切ってしまえ。



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