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発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌「あたふた」 Vol.106 2006.1月号

誌上ギャラリー

永山亜紀子

 LIVE22: 3月10日(金)
中溝俊哉(ob,EH,p)+石塚俊明(dr)+
カリマタミチオ(fl)+永山亜紀子(poet,)

ある日の演奏

語られた音には
いつわりはなかった。
だが
どんなに多くの血が流れ
瓦解した建物を
あかく塗りつぶしたか、
そこには何も
触れなかった。
 まだなにも
 触れ得なかった。
 まだ。

綱引き

白い紙片の裸身を垂直に斧として
振り落とすというひとつの
比喩
その速度が
生け獲りたいうを、なのであろう
鬼神は

音楽は苦しみから生まれる
詩は、生まれるべくして
生まれる
意識の彼方に
貴方ののろしが浮かぶ

誓えば済むこと
乞い希えば
宿ること
退かざるの
綱引き

葡萄

まるくて
ゆれて
たえず膨らんで
それがたくさん
たくさんあるもの
巨大な葡萄の
房が
私のまぢかに
接している
愛トカいう
感覚

わたくしは信じ難い
それが私の内部ではじけ
紛れもない、他者の
なまみの肉を持つ、他者の
継続するひとつのまなざしが熟して
空間を
巨大な果実の器のかたちに
これは、これは
わたくしがわたくしの内部を
さがしあてようとすればするほど、いえ
さがしあてようとする、その手探りの
あかつきに
ぶらさがっている葡萄の
実房

わが日常

夢や情熱や支えがいちどきに失われて
乳房のなかがなみだの粒粒しか奏でない岸辺
びぃ玉のやうな奏でがかすかに打ち寄せる
母なる岸辺

それでもあのまなざしは向けられている。
けっして帰化することはない
なみだの粒粒は
紫陽花の雫とあいまじわりて
朱の風船のごとくふくらみ

びぃ玉いろの球体に冷却された
母なるものへの憧憬。
そこからの再出発。
父とは非在の実在。
そこからの再出発。

決意の糸のながれが日々のいとなみとなる
その狭間に張られた月とともに白い鯨が
紫陽花いろの洗面器に写る。
ささやかなしごとの正面をささえる
あたたかなあたたかなあたたかな
かのまなざしに満ちてやっと
肺の内奥のいきものは息づきあいしはじめる。
ミルクの澄んだ濃霧が頬や襟首や肩先に
ごらん
ほのかに点ったあたたかな決意を。

再到来した凍りの時代
幾層にも幾層にも揺れる
重なりながら揺れる氷のカアテン。
再到来した冬の時代  
ごらん
それでもほのかに点ったあたたかな決意を
どんなにさむくとも。

太陽に祈り請うてはならぬ、
とは書けないわが日常よ。



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