発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌「あたふた」 Vol.98 2005.5月号

夜を越えて飛ぶ
ライダーMEN、ヨーロッパに出現

 
 夜を越えて、飛ぶ・・・
太陽に向かって飛んだあの日、沈まぬ太陽に心躍らせながら僕は思った。「必ず寂しい気持ちになるんだろうな・・・」  それが旅ってものなんだろう。僕らには、帰る場所がある。帰りたい場所がある。

 今年の3月、僕は卒業旅行(←もうとっくに学校は卒業しちゃってるし何を卒業するのやら・・・)と称しヨーロッパの旅に出た。ローマ、ロンドン、五反田・・・世界を感じる旅の始まり。
 旅行って何だろう。僕は現実逃避だと考える。村上春樹は「移動するスピードに現実を追いつかせるな」それが旅行者のモットーである、と言っていた。今まで何度も現実逃避を繰り返して来た僕は、出発したばかりのローマ行きの飛行機の中、気付いてしまったのだ。この夢はいつしか必ず覚めてしまうってことに。そんな押し潰されそうな胸を窮屈に抱え、奇しくもまだ見ぬ異国の地に夢を馳せ、笑顔がこぼれた。この8日間、現実から全力で逃げてやる。
 ここはローマ、ピザ屋が、正に、吉野家の様に、ある。そして吉野家の牛丼くらい、美味い。僕はこの街が一瞬で好きになってしまった。3分歩けば世界遺産、また3分歩けば世界遺産、公園を歩けばストリートミュージシャン、画家、角を曲がればまたストリートミュージシャン、画家・・・正に絵に描いた様な景色、そしてその景色に溶け込む様にバイオリン、アコーディオン、ギターの音が響く。ははは。笑ってしまった。素敵過ぎる。彼ら、彼女らはこの街を愛しているのだろう。東京を好きになれず、東京で歌う僕らとは、全く違う音を奏でていた。そんな空気に酔いしれながら、ナヴォーナ広場の噴水に腰掛け、必死でシャッターを押し続ける観光客を眺めながら、日が暮れるまで一人、読書(←旅先で読書、これが僕の最大の目的であり幸せであり贅沢なのだ)に勤しんだ。僕はその景色に溶け込めたのだろうか。いや、逆に浮いていたのかもしれない。でも僕は、そのローマの街の空気が胸の中に溶け込んで行くのを確かに感じた。
 ここはロックの聖地、ロンドン、イングリッシュパブが、正に、マックの様に、ある。そしてマックのダブルチーズバーガーよりも、美味い。そして、高い。物価は日本の1.5倍くらい。むむむ、厳しい・・・。イギリスは料理が美味しくないと言われているが、9割方正解。ロンドンの人は昼間からビールを飲む。日本では昼間からお酒を飲んでいるとダメ人間か浮浪者と思われてしまいがちだが、ロンドンではそれがジェントルマン?だ。素敵過ぎる。僕は昼間から、またしても、イングリッシュパブでビール(←やっぱギネスでしょ)片手に一人、読書に勤しんだ。そうでしょう。浮いていたことでしょう。何人かのロンドナーが何やら訳の分からぬ言葉(←たぶん英語だったと思う)で僕に話し掛けては去って行った。何せ僕の英語は、オニオンリング(←発音の問題らしい)すらイギリス人には通じなかったのですから。それでもビートルズやオアシスの歌は、意味が分からずとも、今でも心に響いる。
 成田行きの飛行機の中、僕はやっぱり寂しい気持ちになった。もうすぐ夢から覚める。何だかとても、歌いたくなった。僕にとって歌うことは、現実と向き合うこと。生きると言うこと。僕には帰る場所があった。帰りたい場所があった。この旅の経験によって僕の何かが変わったとか成長したとかなんてことは分からない。だけど僕は日本が好きで東京がちょっぴり好きになって音楽が好きでとても歌いたくなったのです。その全ては現実に中にある。だから僕はその現実を少しずつ切り取って歌い、また明日の僕に繋げて行こうと思う。そしてまた、現実逃避の旅に出掛けよう。帰る為に、旅に出よう・・・

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