発行・ライブハウス/渋谷アピア
アコースティック情報誌 Vol.130 2008.1月号
我等の正気を生き延びる道を教えよ
小池真司
・・それとも二十歳の時に飛び散らせた自らの臓物を拾っては

     腹に押し込み続けるのがこの一生だとしたらどうだね?・・・
少女の尻の淋しい丘を犬として

   星吐きて死ね 独立銀河

未来がなければ人間は無い、のだから人間は無いのだ。それ以外のものがあるだけなのだ。
人間が無ければ人生は無い、のだから人生は無いのだ。それ以外のものがそこらじゅうに飛び散っている。
何か人間は砕けたガラスの肉片のようで、言葉を交わす度に口の中が血だらけでジャリジャリで、だけど人間の他に食うものなど無く、食えるうちに食われる前に食うだけで、だが鏡を見ると俺はもう背中半分ごっそり食われている。
人間が人間を食い続けるとそれは当然無限の餓えとなり、目と耳は口へと続き鼻と口は肛門へ、人間は二本の透明な管の交差点に渦として現れる飢えた経済的な虚構、虚構としての実体なのだ。だからこそ目をつぶって飲むビールのように誰も彼と彼女が誰であるかを特定することはできない。
その画一性と同質性はほとんど彼等を不死の存在とさえしているのだ。しかしそれが優良な商品としての必須の優位性であり、誰ひとりそれを手放してはならない以上、各人はその不死性と共に神の絶対の孤独をも引き受けねばならず、人間は荒野の王の如くに尊大にして孤独でありオナニーを繰り返す猿にも劣る管なのだ。数十億のリア王が今や他者を排除し尽くした各人の天体で吹きすさぶ虚無と対峙する。インターネットの回線はあらゆる体液で汚染され、そこでリア王の子供達は受精され産み落とされ放棄され虐待され曝され無視され電脳の海へと流される。水子でいっぱいの通信回線はそしてあらゆる人間のコミュニケーションを濡らし始める。遂にそれは喋る。あらゆる人間の口で。あなたに最もふさわしく、あなたによって最も深く待たれ、そして誰も言ってはくれなかった一言、つまり「シネ」と。そしてそれこそが進化し続ける情報の極限の形態に他ならない時、無数の女子高生によってそのマントラは書き込まれねばならない。「我等の正気を生き延びる道を教えよ」。
クリック。ダブルクリック。「しね」「シネ」「死ね」言葉は管の中を転がり落ちていく。君の外壁が破れ、それは僕の足下まで溢れ出す。
もう言葉は、血のように止まらない。

「矩形の虹」

矩形の虹が空に顕われ
コンビニから見上げる空に
追い詰められた手すりの先に
ひといろ欠けた虹が顕われ

それは苦しみのようにチープ
自殺願望のように嘘くさく
つい幾ら出せば消えてくれるのか
考えてしまう程くだらない一生を
空気銃で狙い狙われながら
簡単にそれで撃ち抜ける
空気頭なんぞを揺らして
矩形の虹がまたぐあそこまで
キツネの面の行列がゆく
なでしこの百均の髪飾りで
そのひといろの欠けた着物で
手にはブルーのケースを持って
返し忘れたビデオみたいな人生を
ツタヤの看板みたいな虹の下へと
おお幾年の延滞になるのか
そして誰も帰らないのは?
矩形の虹が空に顕われ
二十四時間 消えない

「死罪円空

血に濡れた包丁を持ち
男は人間の中から
泣いている仏を
切り出そうとした
 あらゆる通りすがりに
 訪れたあらゆる土地で

 ・・雪に落ちる血はつまらない
   美しすぎてつまらない
   まして仏は何処にいる?
   死んで歓ぶ衆生の何処に?

 十一の首では足りない
 千の腕では足りない
 あらゆる通りすがりに
 訪れたあらゆる土地で

・・雪に落ちる血はつまらない
   美しすぎてつまらない
   まして仏は何処にいる?
   死んで歓ぶ私の何処に?

「ルドン17」

ルドンに私を描かせたら
どんな私になるのかな
長い髪は綺麗だけれど
彼は額に胎児を描くわ
生まれていない私を描くわ
なのに乳房は張りつめていて
肉に怯える私の腹に
彼は異形の獣を描くわ

私の窓は光が零れ
春のみどりがふるえてる
きっと私の瞳は無いわ
彼は瞳の画家なのだから
荒地に浮かぶ瞳だけを描くわ

獣を生んで私は死ぬわ
母によく似た獣になるわ
父を知らない子供の瞳
それはあなたの子供なのだわ

 オディロン・ルドンさようなら
 燃えさかる瞳のゴンドラに乗り
 私がルドンを描いたなら
 父を知らない子供の瞳

「太陽の季節」

誰もが俺に媚びへつらう。だが女房と、難しい年頃の子供達は軽蔑している。女房は俺の会社と結婚したのだから、すぐに寝室は別々で当然だった。俺がものを喰う時の「下品さ」とやらが目につき始めてからは「SAIAKU」だそうだ。子供達は誰ひとり俺の思うとおりにはならなかった。俺があいつらを土足で踏みつけるように、あいつらは俺に唾を吐きかける。当然愛人の一人や二人はいる。 だがあいつらも俺の財布を愛するだけだ。俺はタイの少女達が趣味だ。その穢れ知らぬ眼差しにケツの穴まで射抜かれなければもう立つものも立たなくなった。だが控え室からはエロジジイをせせら笑う声が洩れてくる。汚らわしい不法入国者の本性も露わに。どこから洩れ聞くのか部下のOLも皆それを知っている。金で黙らせた新入社員のあの娘の事を。だが誰も俺には頭が上がらず誰も俺を告発しも捨て去りもしないのだから所詮こいつらは俺になれなかった俺にすぎないのだ。俺にあった能力がこいつらには無かった、だからこれは当然の報いであり権利でもあるはずなのだ。劣等人種にはそれに見合った使役の仕方があるはずだ。奴等に胃袋と性器と愚劣な善良さ以外の何があるというのか。俺には選ばれたる者の恍惚と不安がある。この世界で金が俺を選んだのは神が俺を選んだに等しいではないか!

心得1.汝の隣人を使い捨てよ
  2.姦淫せよ(それは優生学的見地から奨励される。)
  3.使えない者は見殺しにせよ(非生産的存在の自殺を奨励せよ。)
  4.能力によって人間を完膚なきまでに差別せよ。
生きる価値のある者と無い者とは我々が選別する。この我々の王国では全員がスパイ、密告者、姦通者、敵であり得る。それは肉親とても例外ではない。いや、奴等こそが最も危険な存在なのだ。

 俺はベンツの灰皿に見慣れぬ吸いさしを見つける。こいつが男を連れ込んだのだ。神仏も人も一切を信用しない俺の目を女がごまかせはしない。俺はこの忌み嫌うべき金の亡者?この女?俺の女房を殴り飛ばす。この売女め!と決まり文句を叫びながら(俺の生命保険の額を思い浮かべながら)。
女が泣き喚く、淋しかったと泣き喚く。俺はその無能さと凡庸さとに殺したい程の憎悪を覚える。こいつらに人権を認めたとは何という体タラクであろう。こいつらのために文化の一切が装飾品にすぎなくされたのだ。こいつらにとっては全てが生殖器につけるピアスに過ぎない。朝鮮人め。ニグロめ。精神薄弱者め。扉がバタンと開き怒鳴り散らす俺の前に手首を切った長女がよろめきながら入って来る。女房は悲鳴をあげる。長男の豚が後ろでブルブルふるえている。人を刺す度胸も無い白豚め。俺の飛行学校時代の友人達は国のため大義のためにその命を惜しげもなく投げ出して散っていったというのに。俺は今も彼等の最後のまなざしを忘れられずにいるというのに。
平和に死を!(いや平和こそ死なのかもしれぬ)
何故徴兵制が未だに復活しないのか。こいつらを鍛えなおし淘汰し、なおかつ産業を太らせる珠玉の戦争が何故未だこの国に訪れないのか。我々は我々の血を洗わねばならぬ。何故我々は他人に他人を殺させる、などという卑劣な存在に、いつまでもあまんじねばならないのか?いつまで狼に怯える豚であり続けねばならないのか。何故豚に守られる豚であり続けねばならないのか。何故「太陽の季節」は未だ来ないのか?豚め!豚どもめが・・・

     *
「さあ参謀本部へ参りましょう」
白衣の女がそう言って便所へと車椅子を押して行く。
息子に鈍器で殴られたその後頭部の縫いあとが夕陽に光る。
「太陽の季節?ああぺ・ヨンジュン!好きよ」
初老の看護婦がオムツの老人を押して行く。
死んだら報せて下さい、とだけ彼女は言われている。


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